第07話-2

「昨日も出たんだってな、ブリッツァー」

「すげェよな~・・今度は7メートルくらいのトコから飛び降りたんだってよ!」

「まるで人間じゃないぜ・・」


中学校・・体育の時間。

男子と女子に別れての、典型的な光景

・・シュウは隅の方で、テニスコートのフェンスにもたれながらそれを見ている

・・ジャージにも着替えず、学生服のままの姿で


少しの間の間に、ハルカが声をかけてきた


「大変だよね・・病気。心臓じゃどうしようもないもんね・・」

「大丈夫、運動しなければいいだけの事だから・・」


実際の所、そんな病気は持っていない

サクラの偽造した診断書で誤魔化して、そういう授業はサボっていた


「・・こんな身体を人に見られたくないんだ・・所詮「失敗作だ」って言われたくない・・」


ハルカが行ってしまった後で、口から自然とこぼれ落ちた愚痴

真相を語っているのだが、それの意図する所はわからない


・・特別扱いだけで十分だよ・・・これ以上そんな要素が増えたら、僕はどうしようもないじゃないか


シュウはその日も、ブリッツァーとして動いた

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一方でサクラは、世間の目に順応していた

・・「うん」と言えば「すん」と答え

・・「どうでっか?」と聞かれれば「ぼちぼちでんなぁ♪」と答えた


「要するに・・住めば都っていう事ですよ♪」

「そりゃ、ちゃうと思う・・(汗)」


サクラは二つの顔を持っていた

一つはおっとりした今の顔、もう一つは世間を欺くための「のらりくらり」とした顔


「にゃーに、あたしは天才ですからぁ~☆」


彼女は、世俗から離れたいと思うシュウをかばうようにその顔を多用していた

自分が目立つ事で弟の自由を確保したかったのかもしれない

だから、シュウがセキュリティ破りというストレス解消の手段を見いだした時、協力する事を決めた

・・そして・・彼がしばらく「家を出る」と言った時も、だ


・・彼は、完全に「ブリッツァー」に・・「電撃」のようになろうとしていた

自分に解けないプログラム、システム、トラップ、キー、ドア、ウインドウ・・

何でもいいから、電撃である自分を止められるような難解な「壁」が欲しかった

それを突破することで新しい快感が得られる・・それは自分にとっての自由に他ならない


普通の日常に浸っていたのでは、自分が「天才」である事によって、将来は高名を馳せる学者か、偉そうな教授くらいになって終わるだろう

もちろん、選択肢はあるのだろうが・・選んだ道次第では世間の目が許さない

・・徹底的に叩かれて終わる、そんな惨いエンディングも自分は欲していない

そして待っていても、恐らく誰もがいつも通りの反応をして・・壁を用意してくれる、なんて期待はあっさり砕かれるだろう


だったら、自分で壁を探しに行く


そう決めたシュウはありとあらゆる美術館、宝石店、博物館、高官の事務所・・

警備態勢の良い所ばかりを狙って、戦いを挑んだ

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「貴様が・・!ブリッツァーか!?」

「捕まりませんよ、残念ですけど」


S.G・・警察機構が警備に参加する事も増え、セキュリティの厳しさは一層増した

・・だが・・それも、シードとシュウを止めるには至らない


変装し、流浪の倉庫破りのような生活を続けるシュウ

その生活は一ヶ月の間続き・・シュウの手にかかった警備システムは、総数700以上というすさまじい数字になっていた

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・・久しぶりに学校へ戻ってきたシュウ

何かが変わるかと、期待しての事だ


「滝村くん、一ヶ月も入院大変だったね」

「天才でも病気するんだな・・なーんてか?」


ハルカが言葉をかけてくれる隣で、悪ぶった連中があからさまな態度で嘲る

・・以前にも増して、シュウへの偏見は強まっていた

だが・・本当の意味で彼を絶望させたのは、ハルカに降りかかった出来事だった

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「・・お前さ、あいつの事好きなワケ?」

「それは・・・」


放課後・・人通りも少ない時間の屋上・・ハルカが先ほどの連中に問いつめられている

シュウは学生服のポケットに手を突っ込んで、それをドアの影で聞いていた


・・何をやってるんだか・・・アホらしいね・・


「お前バカだもんなぁ?・・テストの時とか、あいつにカンニングでもさせてもらってんの?」

「わ、私は滝村くんと友達・・・・」

「嘘つけ」

「あんな異常者の友達になって、何の得があるんだよ?」

「異常者!?・・そ、そんな!!滝村くんは普通の・・」

「・・いい加減ちやほやされてるアイツ見るの、飽きたんだよな」

「いっつもいっつも同じ事言われてよ・・リアクション変えないのは「異常者」だっつーんだよ」


・・そうだな、リアクション変えたらみんなの行動も変わるよ・・「つまらない方」に

シュウは物陰でため息をつくように、心の声で答えた


「で・・?何の意図があって滝村の野郎とつき合ってるんだ?」

「違う・・私は・・」

「将来安泰だもんな、あーいう有名人とつき合っておけばよ・・」

「違う・・・」

「あん?・・だったら、どういう損得勘定だ?」


・・しばらく黙りこんで・・ハルカが泣き出した


・・やれやれ・・人の事をとやかく言うだけならともかく、そういう事までしますかね・・


シュウは物陰から姿を現わすと、連中・・・7人くらいの男子集団に向かって歩いていく


「滝村?・・・丁度いいや・・ここなら誰もいやしねぇ・・」


無言のシュウの胸ぐらを掴むと、一人が言った


「てめぇみたいな頭いいだけの優男は見ててイライラするんだよ・・鍛えてやるから覚悟しろ!」


・・なんだ・・程度の低い因縁だね・・

口に出さず、シュウは蹴りで答えた

殴りかかろうとする男子生徒に対して目にもとまらぬ一撃が、側頭部を直撃した


「殴るならもう少しフクザツなモーションかけた方がいいよ」

「て・・てめェ!」

「よくも・・ッ!!」


次々と殴りかかってくる6人・・

しかし、体操選手のように鮮やかに回避するシュウのにはただの一度も当たらない

・・やがて、それぞれの拳がクロスカウンターのようになって・・二人、倒れた


「・・自滅だから、僕のせいじゃない」

「も・・もうキレたぞ・・!!」


ナイフを取りだし、見せつけるように振り回す


「・・・・はぁ・・」


やる気もなくなってきた

・・くだらな過ぎる、こんな事。


シュウは手っ取り早い解決法を使った

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・・解決法=エスケープ

シュウは素早くハルカの身体を抱え上げると、そのまま屋上から飛び降りていた

4階建ての建物、その屋上からのダイブ・・タダで済む可能性は少ないだろう


しかし、シュウはハルカを抱えたまま着地し、その足で逃げるように走り去った


「あ・・あの野郎!?・・なんて事を・・・」

「見たか?・・ここ、何メートルあると思って・・」

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・・少しして・・シュウは自宅の自分の部屋に、ハルカと共にいた


「・・さっきは一瞬の事で、びっくりしちゃった・・」

「ごめん、ケンカするのは気が引けたから」


ハルカは驚いた顔こそしていたものの、シュウがとった行動に関してはその程度の感想だった

・・頭がいっぱいだった事もあるのだろう、彼のために反論していたのだから


「・・昔、「天才」って呼ばれていた人も同じような目に遭ったのかなぁ・・?」


ハルカが不意に、つぶやいた

シュウは思いもしなかった事に、つい考えてしまう


「・・そうだね・・・僕みたいに呼ばれて、偏見の目で見られていた人はどうしていたんだろう・・」


・・しばらく考えてみたが、これは自分の中で議論すべき事として・・とりあえず、ハルカの姿を見た

少し短めにした髪、見慣れた制服に華奢なスタイル・・

特別「可愛い」とか、そういう感情をシュウは持ち合わせていない

段々薄れていった感情の中に混じって、人を賞賛するような気持ちは消えてしまったのだ

・・だが、確かに今のシュウの心にはハルカの存在が大きく映っていた

・・だから、その心が彼に告白をさせていた


「・・実は・・・僕は心臓病なんて患ってないんだ」

「え?」


突然の声にハルカがきょとんとした顔になる

・・シュウは学生服の上着を脱いで、ワイシャツのボタンを外した


「っ・・・え~っ!?」


顔を真っ赤にして目を伏せるハルカ

・・その間にも、シュウの脱いだ服が床に落ちる音が聞こえる


「・・僕の胸に手を当ててみて」


ハルカは無言で頷き・・何を勘違いしているのかは知らないが、目を閉じたまま恐る恐る手を伸ばした

シュウはハルカの手を自分の胸に持っていく


・・ふわっ・・と柔らかい感触が、彼女の手に伝わった

・・女性特有の、自分にもある感触・・


「・・お・・女の子・・?」

「違うよ・・僕は・・男でも女でもない・・」



目を開けたハルカの視界に、ワイシャツを軽く羽織ったシュウの姿が映った

確かに、その身体は・・女性のものだった

・・・普段は何か巻いて、誤魔化していたらしく・・脱いだ上着と一緒に、布きれのような物も見受けられた


「僕は天才なんかじゃない・・遺伝子操作を受けて生まれたんだ・・今みたいになるようコーディネイトされて」


語っていたシュウの口調が、少しくぐもった感じになる

遺伝子操作に関する技術はそうも進んではおらず、今でも夢物語のような状態である

しかし・・シュウは、自分がそれによって生まれた存在であると言い放った

「・・ただ、操作が上手くいったのは姉さんで・・僕は失敗作なんだ・・身体能力、代謝機能、処理能力の向上、全て成功したけど、性異常と感情の欠落を起こして・・僕は一定の感動を失って、男とも女とも言えない中途半端な存在になった」

「大丈夫」

「・・え?」


シュウは初めて、心の底から「驚いた」

ハルカはにっこり笑って、シュウの手を取ると言った


「最初に言ったでしょ?滝村くんは私の友達よ、何を気にするでもなく・・普通のお友達」

「・・・・・・・」

「・・それに・・私は・・」


ハルカは言いにくそうに口ごもった後、小さくつぶやくように言った


「あなたの事が・・・・」


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